『愛していると言ってくれ』の「未熟」なヒロイン像

ドラマ
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過去の名作ドラマの再放送が、下手をすると新ドラマ以上に話題をさらっている今日この頃。

前回、こちらの記事にて勝手につけた再放送作品の満足度ランキング一位の『愛していると言ってくれ』は、先日ついに最終回を迎えました。

 

【新型コロナ】再放送ドラマ&映画、勝手に満足度ランキング
「STAY HOME」のため、過去の名作がたくさん再放送された4・5月。 懐かしい名作からついこの間放送されていた人気番組まで、さまざまな顔ぶれが揃いました。 もともとインドア派にとってはSTAY HOMEも全く苦ではないのですが、観たこと

 

しかし改めてみると主人公の紘子(演:常盤貴子)、現代におけるヒロイン像とはまったく違う「未熟」で「発展途上」の女の子でしたね。

そういえば、最近はこういうタイプのヒロインはめっきり減った気がします。

 

終盤〜最終回のあらすじ

耳の聴こえない青年・晃次(豊川悦司)の元恋人・光(麻生祐未)が登場したことで、紘子(常盤貴子)と晃次の関係がギクシャクし始める。

シングルマザーで頼るあてのない光に、晃次はただただ親切にしたいのだが、その優しさが紘子をヤキモキさせ、光の恋心を再熱させてしまう。

 

ある雨の日、光は晃次と紘子が同棲する部屋を訪れた。紘子は地方の舞台公演中で不在。

息子が元夫に連れて行かれたことで気が動転し、晃次を頼ったのだ。

そして帰り際、昔晃次から贈られた指輪をわざと置いていく。

 

数日後、あろうことか寝室のベッド下でその指輪を発見してしまう紘子。

「あの人と、このベッドで寝たの?」

 

そして、溜まっていた不満が爆発。

「私は、私だけを見てくれる人じゃなきゃ嫌なの」

「あなたは大人で、一度だって私を対等に扱ってくれたことなんかない」

 

家を飛び出した紘子は、幼馴染で自分に思いを寄せる健(岡田浩暉)のところへ向かい、一夜を共にする。

そして晃次と別れ、健と結婚して田舎に帰ることを決意。

 

しかし、お互いのことを忘れられない晃次と紘子。

紘子が田舎に帰る前日、偶然再開した二人は、その足で海が見える晃次のアトリエへバスで向かう。

溢れる思いを伝えるようにキスを交わす二人だが、「もう大事な人を裏切りたくない」と、紘子は健のもとに帰ることを決めたのだった。

 

しかし、伊達に何年も片思いしてきたわけじゃない健ちゃん。

紘子の思いが自分には向いていないことに気づいており、別れを告げた。

 

「晃次さんのところに戻るのか?」と健。

紘子は、「今の私じゃまた同じことを繰り返すと思う。これまではずっと健ちゃんに頼ってきたけど、これからは一人で頑張ってみる」と前を向いた。

 

そして三年後、晃次と紘子は初めて出会ったリンゴの木の下で再会するのだった―。

 

紘子にイライラ

『あすなろ白書』、『ロングバケーション』、『ビューティフルライフ』など、数々のヒット作を生み出し、“恋愛の神様”と呼ばれた脚本家・北川悦吏子。

『愛していると言ってくれ』でも名言をたくさん残していますが、どうもそのヒロイン像はクセが強く、好き嫌いがハッキリ分かれることで有名です。

 

紘子は、出会ったばかりの晃次の喉元に手を当て、「こうすれば声が聴こえる気がする」と無邪気に発言。

その後も、喧嘩の度に「あなたと一緒じゃ好きなCDも聞けない」などデリカシーのない発言を繰り返し、挙げ句、

「私のことを愛しているなら『愛している』って言ってよ!!」と無茶を言い出す始末。

 

いやいや、それだけは言っちゃダメでしょー!のオンパレードです。

 

散々晃次と光の仲を疑っていますが、自分は昼も夜も、何かって言うと健ちゃんと一緒。

百歩譲ってただの男友達ならセーフかもしれませんが、自分に気がある男だよね?

それで晃次のことをとやかく言う資格なくない?

 

……など、段々とイライラは募っていくのでした。

 

とはいえ、若いうちってそういうこともあるよね。

特に、最後なんかは

・健ちゃんと婚約しているのに自分から晃次にしなだれかかる

・婚約者以外の男と外泊しておいて「裏切りたくない」

→もう十分裏切っとるわ!!

・しれっと帰る

(健ちゃんから別れを切り出さなければ結婚してた?)

 

とツッコミが絶えませんが、女のズルさや若気の至り、その場の空気に流されてしまう心理など、まあわからなくはないですよね。

 

晃次と健の器が大きすぎて女側に都合がよい感じは否めませんが、失敗をきちんと反省して、最終的に一人を選ぶところはよかったですし。

 

「甘さ」を許さない現代社会

でも、昨今はこういう人間の「未熟」で「大人の女性として成熟する前」を描くドラマが、すごく減ったと思うんです。

刑事物などのお仕事ドラマが主流になっているせいでしょうか。

主人公には欠点もあるし困難にぶつかるけれど、基本的には格好良く描かれることが多いですよね。

 

「未熟なヒロイン像」をしいて挙げるなら、『凪のお暇』(2019年)の凪や、『恋はつづくよどこまでも』(2020年)の七瀬かな。

でも、凪は「成熟後」にぶつかる壁を描いていたし、一話ごとに少しずつ成長していました。

 

一方の七瀬はコメディタッチだったし、人間の成長を深く描くつもりのない作風でしたが、序盤は「ドジっ子キャラがイライラする」との声も少なからず挙がっていたんですよね。

これが、大人として「未熟」なヒロインが減った一因のような気がします。

 

人間なら誰しも失敗するし、そこから成長するもの。

ですが、昨今の不倫バッシングや自粛警察しかり、「甘さ」を許さない社会になってきています。

「正しいか、正しくないか」ですべてが決まるといっても過言ではありません。

 

視聴者の声が昔より大きくなったせいで、SNSの反響によってはその後の脚本変えちゃう時代だし。

 

「昔はよかった」と言うけれど

ドラマが再放送されると「昔のドラマはよかったな〜。今のドラマはつまんないから見習ってほしい」などとすぐ言う人がいますが、声を大にして言いたい。

昔だからいいんだよ!!

 

だって今『愛していると言ってくれ』が新作としてリアルタイム放送されてご覧なさいよ?

たぶんSNSは紘子への罵詈雑言で埋まりますよ。

「フシダラなオンナだー!!」って。

それに、ストーリーの最大の山場が元カノの登場ですからね。

弱い、弱すぎる。

 

もちろん今でも色あせない素晴らしい作品ですが、昔のドラマは「昔のドラマ」というフィルターがかかっているからよく見えるんですよ!

今のドラマには、今の時代だからこその見応えがあるのです。

 

まとめ

『愛していると言ってくれ』の紘子のダメダメっぷりを見て感じたのは、現代は人の甘さや失敗を許さない、優しくない社会になってきたのではないか、という危機感。

 

再放送をただ「過去の作品」として観るのではなく、放送当時と現代の社会情勢などを比較してみると、色々な発見があるものです。

 

出演者の不祥事により再放送不可能とみなされていた『やまとなでしこ』が特別編として7月6日、13日に放送されることが発表されたので、こちらも楽しみですね。

 

もちろん春夏の新作にも期待!